HOME > Movie > Netflixのアメリカ・オーストラリアドラマ「Clickbait」感想

Netflixのアメリカ・オーストラリアドラマ「Clickbait」感想

  • Movie
Netflixドラマ「Clickbait(クリックベイト)」

よく練られた構成と息もつかせぬ怒涛の展開を楽しめた犯罪ドラマでした。エピソードごとに驚愕の新事実が明らかになっていくので、自分の中の推測が何度も何度も裏切られていく心地よさを味わうことができます。とんでもないどんでん返しがある推理小説や犯罪ドラマが好きな人にお勧めしたい作品です。

メインビジュアル画像引用元:Adrian Grenier and Zoe Kazan’s New Netflix Series’Clickbait’ is Here!

Netflixのアメリカ・オーストラリアドラマ「Clickbait」とは

アメリカとオーストラリアの共同制作の犯罪ドラマで、SNSやインターネットが孕む危うさを巧みに利用したストーリーです。

”bait”は「餌」という意味で、「clickbait(クリックベイト)」とはネット広告やSNSでユーザーにクリックさせるために敢えてそのページとは関連性の低いor無い文言や画像を載せる虚偽・誇大広告手法のことです。
日本語でいう「釣り広告(ダイエットや美容、資金関係でよくあるやつ)」や「釣りニュース」に近いかもしれません。一種の詐欺手法ですね。

参考ページ:Weblio辞書

コロナ禍によって2020年3月から撮影が一時停止していたもののその8ヶ月後に撮影再開されました。ドラマの舞台はアメリカですが、実際の撮影はオーストラリアのメルボルンで行われたそうです。
Rotten Tomatoesでは批評家からは44%と低評価であるものの一般ユーザーからは91%の評価を受けているので差が激しいですね。

「Clickbait」
リリース:2021年8月25日
制作元:Netflix
制作国:アメリカ、オーストラリア
言語:英語
エピソード数:全8話

Netflixのアメリカ・オーストラリアドラマ「Clickbait」公式予告編(字幕なし)

不安を煽るような雰囲気が本編の緊張感をよく表していると思います。

Netflixのアメリカ・オーストラリアドラマ「Clickbait」感想

以下、重大なネタバレを含む感想です。

このドラマは単純な伏線回収で終わる一般的な犯罪ドラマとは異なり、嘘と真実の層が幾重にも重なっています。そのため、本当にこのドラマを楽しみたい人にはネタバレを読まずに全8話のドラマをまず鑑賞することを強く勧めたいです。

それでは、感想に入るよ。気付いたら1万字超えてたので長めです。

一言で言うと、「どんでん返しの連続だった」。1話目から一気にストーリーが進んでいくため、鑑賞側の私は何の心の準備も無くいきなり海に突き落とされたような気持ちになりました。

今まで私が好き好んで観てきた犯罪映画やドラマで描かれていた殺人事件では「相手に対する明確な殺意や憎悪を遂行する手段としてその事件を起こした」というような一般的なプロットが多かったので「Clickbait」のように悪意や加害が発端ではない殺人事件ものは新鮮でした。

そして、この作品で強く感じたのがスマホ社会の利便性と危険性です。というのも、この作品の事件の真相究明に大きな影響を与えるのはSNSやインターネット上に投稿された各個人の情報だからです。

日本では個人情報に対する警戒心が必要以上に強すぎてインターネットやオンライン手続きにすら不信感を抱いている人が多いせいで実名登録制のFacebookがあまり浸透していないのですが、欧米圏などでは主要SNSといえば断然Facebookのため人々は自分達の日常や友人関係、家族や恋人関係、旅行や出来事、政治やニュースへの関心といった何から何まで事細かに投稿するのが多数派です。

今や子供から高齢者まで日常的にインターネットを使うのが当たり前なので、「他人に知ってほしい」と思って個人的な写真や出来事を頻繁に投稿すればするほど、その人物の足跡や人物像はインターネット上に明確に記録されていきます。そのため、ある一つの糸口が見つかるとそこから芋蔓式に関連事実が見つかっていくんです。
このドラマではそれが上手く描かれていました。

主要人物はニックとソフィーの夫婦、そしてニックの妹のピアと刑事のアミリだと思います。ニックの母の誕生日祝いのシーンから始まるのですが、その時に夫婦とピアの3人はあまり穏やかな関係ではないことが分かります。特にピアは義姉のソフィーが鼻につくようで嫌悪感を隠しません。

正直に言うと、序盤私はピアが鬱陶しかったです。彼女は自己中で自分の言動や行動によって周りの人が傷つくことなど一切気にかけず、自分の不機嫌感情だけで短絡的にキレ散らかして暴れる幼稚な人間だったので(特に1話はそれが顕著)。
でも回を追うごとに彼女も変わっていくし、ピアのせいでこのドラマを途中離脱するのはもったいないから、もし私と同じように1話目のピアにうんざりした人がいても頑張って続きを観てみてほしいな。

いつものようにピアがみんなの雰囲気を台無しにしたその日、兄のニックはいい加減うんざりしていたので激昂してピアを家から追い出します。あの時の「Get out of my life!」という言葉には相当な怒りが込められていたと思います。

ただ、その翌日ネット上に奇妙な動画がアップされます。メタル音楽をBGMに、頭から血を流した一人の男が「I abuse women(俺は女性達を苦しめている)」「At 5milion views I die(この動画の再生回数が500万回に達したら死ぬ)」という紙を持っているものです。
そして、その男はニックでした。

このドラマは全8話ですが第1話は「妹」、第2話は「刑事」、第3話は「妻」という風に毎回1人の人物目線で物語が進んでいきます。その描き方も面白いと感じました。

まず、1話目で中心人物となるのはニックの妹のピア。彼女の職業は看護師です。
ニックと兄妹喧嘩を繰り広げることはしょっちゅうだったものの、彼女自身は子供の頃からニックのことが大好きでした。
だからこそ、「ニックが殺されるかもしれない」という事態に陥った時に誰よりも取り乱し、ニックの遺体が見つかった後も真犯人逮捕のために必死になっていたんでしょうね。

彼女はやること為すことが衝動的かつ短絡的で、熟慮や遠慮による「大人の対応」もしないので真相を知るために躊躇いが無いです。殺害犯だと思われる男のもとに1人で向かったりもします。
こういった彼女の短慮な行動は一長一短あると思うのですが、今回は結果的に事件の真相の解明を後押しすることになりました。

そして、ピアと連携しながら事件の真相に迫っていく主要刑事のアミリ。
彼は離婚した妻との間に1人息子がいます。殺人課への配属を長年希望していたもののなかなかその機会に恵まれず、今回ニックの遺体発見現場の絞り込みに貢献したために正式に殺人課に昇格することになりました。
事件を調査する姿勢などから彼は冷静かつ理性的で優秀な人材だと感じたのですが、昇格するまではムスリムであるためかそれとも彼があまり周りと関わらないためか同僚や上司からは嫌がらせを受けていました。

このドラマはどんでん返しが何度も繰り返されていくので、鑑賞しながら「あいつが犯人か?」「こういう理由で殺害したのか?」と自分の中で推測していたあらゆることが全て覆されていきました。
そのため、次々と明らかになる関連人物達全員が怪しく思えてしまうんです。
第7話と最終話で明らかになる、事件の原因となった人物やその背景はまるで予想だにしていないものでした。

ドラマの展開は「ニックがクソ野郎と分かった前半」と「ニックは被害者と分かった後半」という2つに分けられるかもしれません。
また、作品内で重要になる関連人物達は以下のようにいくつかグループ分けできると思います。

  • ニックがデートアプリで親しかった女性達
  • ニックを誘拐し、動画をアップした人物
  • ニックの職場の同僚とその生徒
  • ニックを殺害した人物

そうなんです。誘拐して脅迫動画を撮影した人物と、実際に殺害した人物は一致しないんです。
これが明らかになった時の衝撃は凄まじかったですね。というのも、その事実が明らかになるまで「ニックを誘拐したのも殺したのもあの男だ」という雰囲気がかなり強かったから。

「ニックがクソ野郎と分かった前半」について

ここで重要になるのは「ニックがデートアプリで親しかった女性達」と「ニックの職場の同僚とその生徒」です。

デートアプリの彼女達の存在は「ニックと真剣交際していた」というエマがソフィーのもとを訪ねてきて明らかになりました。半年前にデートアプリで知り合った2人は週末を一緒に過ごし、結婚して子供を産む話までしていたほどです。

ただ、ニックがやり取りしていたのはエマだけではなく他にもう2人いました。マンディとサラです。
ニックは別のデートアプリに異なる名前で登録し、別れた後は削除するということを2年前から続けていたんですな。
そして、サラはニックと別れた後ショックのあまり自殺していました。

これが判明した時、私は「おいおい、ニックの野郎クズ男やんけ…」と彼に対する一切の同情を失くしました。てっきり妻ソフィーの不倫のショックの腹いせに自分もデートアプリを使い始めたのかと思ったら、それよりもはるかに前からアプリに登録していたからです。

この時にふと思ったのは「恋愛経験の有無と自己肯定感って大事だな」ということです。

ニックに夢中になっていたエマ、マンディ、サラの3人のうち、ニックに違和感を抱いたのはマンディだけです。恐らく、さっぱりした性格のマンディは今までそれなりに恋愛経験をしていたからこそ、そこまでネット恋愛に入れ込こんだりせずにむしろ「なんかこいつ怪しいな」と気付いたのだと思います。

反対にエマとサラは今までまともな恋愛をしてきていないことが観てて分かりました。2人ともまるで恋を知らない少女のように純粋だったからです。

特にエマはマンディに会ったことで自分がニックにまんまと騙されていたと気付いた後は「恋愛に無知だった自分」が恥ずかしくて認めたくなかったのか、「自分は最初から気付いてたわ」と話す内容を一気に変えたのでそれが余計に彼女の恋愛経験値の低さを感じさせました。
ただ、ニックとの逢瀬を自分ででっちあげて信じ込んでいたエマの想像力はある意味すごい。

エマは控え目で自分に自信が無く、サラは幼少期に両親を亡くして兄と一緒に里親を転々として育った女性です。2人に共通していたのは「自尊心の低さ」と「愛情への飢え」だと感じました。

完全な余談:自己肯定感の低い女性がクズ男に夢中になる時

自分のことを自分自身で「大切だ」と自信をもって思えない人は他者からの評価に依存することでしか自己評価ができません。
すなわち「彼が優しくしてくれるなら私には価値がある」「彼が愛してくれるなら私は良い女なのだ」と、「彼」を主体に考えてしまうんですね。相手から良くされている時は上手くいく関係ですが、反対に相手から蔑ろにされたり暴力を振るわれたりなどすると「私が悪いから彼はこんなことをするんだ」と自分に全責任を負わせてしまう。そして、「自分のことを許してほしい」というような気持ちでより一層相手のために一生懸命尽くすんですよね。
だからこそ他人軸の恋愛をしている女性は明らかにクズ男であってもなぜかその男のことを庇ったり、その男のために尽くし続けたりするんだと思います。
実際にはそういう男は「どんなに足蹴にしてもこの女は俺のために尽くす」と舐め腐るだけなので、ますます雑に扱われるだけなんだけどね。

タチが悪いのはクズ男って飴と鞭の使い方が巧妙なんですよね。
こっちを傷つけて不安にさせて「やだやだ、嫌いにならないで」と必死に縋らせた後は妙に優しくなったりするんですよ。こんなことが繰り返されるうちにいつの間にか「彼の機嫌を損ねないようにしなきゃ」とか「彼が喜ぶことをして好きになり続けてもらいたい」とか「彼から連絡が無いから嫌われたのかも」とか思うようになるから怖いよね。
自分の世界がその男中心になるので自分の幸福を測る物差しが「彼から好かれているかどうか」になってしまう。

まあ、これは自己中な馬鹿野郎インド人彼と付き合ってた時の私の実体験でもあるのでクズ男に尽くしがちな女性の気持ちは分かる。でも、あの時の失敗を経た今確実に言えるのは「相手の女性を雑に扱うような男と付き合ってても泣くことが増えるだけで幸せにはなれんぜ」ということかな。
それでもその男が好きで好きで仕方なくて尽くしたいならそれはその人の自由やけど。
今の私は「は?この男私に失礼過ぎん?いらんわこんな奴」という風に切り捨てられるようになったのは良い傾向だと思う。自己肯定感って大事。

作品の感想に戻るよ~

メッセージ上のニック自身は別にクズ男でもなかったけど、自己肯定感と恋愛経験値の低いエマとサラは例にも漏れずニックの甘い言葉に簡単に舞い上がってすぐに「大好き」モードに突入し、自分の中で一方的な妄想を暴走させたり、理想の王子様としてニックを自分の世界の中心に据え付けたりしていました。

特にエマは優しくて思いやりのある言葉をくれるだけでなく情熱的なSEXをしてくれたり自分の誕生日にプレゼントを送ってくれたりするニックのことを心から愛しており、彼との結婚生活を信じて疑っていませんでした。

でも、ニックはこの3人の女性達と一度も実際に会ったことがなかったんです。
その事実が判明した時、私は「でもエマとSEXしてたのに?」「彼女達と電話もしてたのに?」とかなり困惑しました。プロフ画像を加工することはできても、実際に電話で話したり会ったりといったことを他人が成り済ますのは無理があると思ったからです。

また、ニックは以前職場の大学の女子バレーボールチームの女子生徒と口論し、彼女がその後にチームを辞めていたことまで明らかになるので「ニックは若い女子生徒をレイプして証拠隠滅しようとしていたのでは」「ニックは誠実なふりして中身は暴力的な女たらしなのでは」とすら思いました。
そして、記者の1人がサラとニックのメッセージのやり取りを公開したことで世論も一気に「ニックが悪者」という雰囲気に傾きます。

そのため「I abuse women」という紙に書かれた「women」とはデートアプリで知り合った女性達やバレーボール選手の女子生徒なのでは、と最初は思っていました。

「ニックは被害者と分かった後半」について

ただ、ニックを誘拐した人物の証言から事態が反転します。誘拐犯はニックに振られて自殺したサラの兄サイモンと、その友人デリルです。

サイモンは過保護とも言えるくらい妹のサラを溺愛していました。
恐らく、子供の頃から里親の家を転々としていた2人は誰にも頼れない不安や孤独感が強かった分、2人の間の絆や信頼感も大きくなっていったんじゃないかな。ただ、サラは自分自身で精神面をうまく保てていないようでした。
だからこそサイモンは一層妹を心配し、彼女の幸せを願っていたのだと思います。

そんな彼にとって、自分の大切な妹をボロボロに傷つけて自殺にまで追い込んだ相手の男は心底憎かったはずです。
そのため、当初は「妹の復讐・敵討ち」としてその男を成敗することを目的として通勤途中のニックを誘拐し、ニックがいかに最低な男かを社会に知らしめて辱めるために動画を録ったんだと思います。この時点で本当に500万回再生でニックを殺すつもりだったのかは不明ですが、恐らくサイモン自身はあそこまで大事になるとは思っていなかったのでは、と思います。
(サイモンがニックの動画をアップしたサイトは彼自身が普段の仕事で違法コンテンツ削除に勤しんでいる環境だったのでは、と思いました。危うい動画が氾濫しているサイトならニックの動画も簡単に削除されなさそうなので)

むしろ、あの状況を悪化させたのはサイモンの友人のデリルですね。
彼はピアから「頭の弱い、進化の最下層みたいな奴」と評されていたくらい無教養で程度の低い男で、ニックの誘拐や脅迫もドラッグでハイになりつつ面白半分で楽しんでいました。
動画の拡散に対しても警察の捜査が入る可能性など微塵も考えず「俺ら有名になれるぜ」と有頂天になっていたほどです。
逮捕後も自分達の計画を洗いざらい自白し、自分が3枚目の紙の文字(「I killed a woman」:自殺したサラ)を書いたことまで話していたそうなので、この男にとってはあの誘拐と脅迫は恥ずべきことではなく「自慢したいこと」すなわち「自分が成し遂げた偉業」だったんでしょうね。

これはフィッシング詐欺を描いたNetflixのインドドラマ「ジャムタラ」を観た時にも思ったことですが、教養が無く道理や理屈が通じない相手には理性的な社会のルールや倫理観が一切通用しないので知能犯よりも厄介だと感じます。
ただ、彼らの中身は驚くくらい幼稚で単純なので心理的な裏をつけば扱いやすい対象でもあるのかもしれません。

その時の感想記事

個人的にはサラの兄サイモンは外見とは裏腹に根から悪い人間ではなさそうだなと感じました。サラに対する言葉遣いも割と穏やかだった上に、警察で自供する際の態度も横柄ではなく理性的だったからです。
ニックを誘拐後、情が移って最終的に彼を逃がしたのも彼自身の判断でした。

そして、サイモンがニックを殺していないと分かると、前半から登場していたのになぜかちょいちょい不審な態度を見せるニックの同僚マットが怪しく思えてきました。

ニックの告別式で女子生徒がソフィーに何か言おうとしていたのに遮ったり、記者が女子生徒に取材していた時も割り込んだりと、明らかに何か不都合なことを隠そうとしているように見えたからです。そして決定的だったのがマットの職場のPCにその女性生徒の裸の写真に加えてニックがデートアプリに登録していたと思われるプライベート写真が大量に保存されていたことでした。

「ニックに嫉妬したマットがニックを破滅させるためにデートアプリでなりすましてたのか?」とも思ったのですが、その推測は見事に外れました。
むしろニックの写真の件でいうとマットは濡れ衣を着せられていただけです。

かと言ってマット自身が潔白という訳でもなく、バレーボールチームの女子生徒から別れを切り出された後は執拗に復縁を迫り、リベンジポルノとして彼女の写真をネット上にばら撒いたりしていました。ニックがこの女子生徒と口論していたのは彼女がチームを辞めると言った際にニックがマットの罪を告発することを勧め、必死に彼女をチームに留めようとしていたからだったことが後から判明します。

そのため、ドラマ後半では「あれ?ニック自身は何も悪いことしてなくない?」と気付くんです。
つまり、ニックは浮気も不倫も何もしておらず、ニックに成り済ました誰かがデートアプリで複数の女性とやり取りをし、その誰かがサラを振ったせいでサラが自殺し、その復讐としてサラの兄がニックを誘拐して例の動画をネットに上げていたんです。

そしてここで疑問になるのが「では、誰がニックに成り済ましていたのか」「誰がニックを殺したのか」という事件の発端と真犯人です。

その2つの実行に関与していたのはニックの職場で働いていた老婦人ドーン(Dawn)でした。
デートアプリに登録されていた写真のメタデータ(写真の位置情報など)からドーンの住所が割り出せたことで、彼女が犯人だと分かったんです。

「メタデータ削除されてたらどうなったんや?」とここで思ったのですが、ハッカーでも何でもないドーンが投稿していたからこそ位置情報を簡単に見つけられたのだと思います。実際のオンライン犯罪なら送信元の足跡がつかない巧妙な手口を使われそう。

彼女は夫と二人暮らしの穏やかな女性です。ただ、自分の趣味に夢中になっている夫とは対照的に彼女は暇を持て余していました。
ある時、ニックのスマホにデートアプリのメッセージが届いていたことを思い出した彼女はほんの出来心でそのアカウントにログインし、相手の女性に返信します。

この時思ったのは、パスワードは1パターンではなく複数パターンを使う方がやっぱり安全やな、ということですね。
「だってニックだよ?!(単純なパスワードに決まってんじゃん!)」とピアが言ってニックのPCのログイン解除したりしてたし、しかもニックはそのパスワード(ペットのハムスターの名前)を色々な所で使いまわしていたのでドーンですらログインできたんです。

ニックは女性にモテる外見なのでデートアプリに登録するとたちまち色々な女性からアクションが来ます。そして、ドーンはいつしかニックに成り済まして多くの女性と恋人のようなやり取りをすることを楽しむようになっていました。

彼女自身が「ただ寂しかったから」「他の人に求められる実感が欲しかったから」と供述していた言葉から思うに、彼女は夫からの愛情に満たされていなかったんじゃないかな。もしくは、友達もおらず趣味もない退屈な日々に意義を見失っていたか。
子供がいない理由をニックに答える際に「ああいうのは、ほら、授かりものだから」と濁したのも、本当は夫の方がSEXもしくは子供にあまり積極的ではなかった結果なのかもしれません。

「自分が誰かに必要とされている」と感じたかった彼女にとって、デートアプリの女性達からの好意的な反応は空っぽだった彼女の心を明るい色で満たしてくれる麻薬のようなものだったのかも。一度ちやほやされる感覚に夢中になったら、もっとそれを味わいたいと思うようになるのも自然なことな気がします。
今まで孤独を感じていたドーンのような人にとっては尚更。

ただ、夫のエドにバレたことでそんな彼女の日々も突然終わります。夫に失望されて悲しみと焦りと後悔がないまぜになった時にドーンが送ったぶっきらぼうなメッセージのせいで、結果的にサラが自殺してしまった。
そして、サラへの敵討ちとしてニックが誤って誘拐されます。

つまり、もしニックがセキュリティリスクを重視する(パスワードを使いまわしたりしない)タイプだったらドーンによって成り済まされることもなく、そして最終的に殺されることもなかったんですね。
こんなこと言っても後の祭りだけど。

ただ、ドーンは本当はニックを救えたんです。というのも、サラの兄に見逃されて逃げおおせたニックはあの後ドーンの家を訪れていたからです。

でも、事件の発端を作った妻が逮捕されないように夫のエドがニックを撲殺し、2人で証拠隠滅していました。ドーンがニックの告別式で大泣きしていたのは「ニックの死を悼んでいたから」ではなく「自分のせいでニックが死ぬことになったことへの自責の念」に因るものだったんじゃないかな。

ドーンの夫のエドは驚くほど利己的だと感じました。妻や自分が逮捕されないためなら何でもするんです。子供のカイに発砲し、厩舎で「殺そう」と話していた時などはぞっとしました。
彼は別に悪意に染まった極悪人などではなく、本来は穏やかで優しいどこにでもいる老人です。なのに、保身のために殺人を犯すことに躊躇いが無い。エマの車に体当たりしたのもエドです。恐ろしく他人に無関心だなと思いました。

ただ、正直、ニックはなぜもっと早くにデートアプリのことをドーンに問い詰めなかったのか不思議です。自分のスマホの通知画面にデートアプリの相手からのメッセージが表示されるんだから、自分が送ったつもりがないのにメッセージが届いていたら不思議に思うもんじゃない?(それとも、ドーンが設定画面からスマホへの通知をOFFにしてたとか?)

最終的にニックの身の潔白は証明されたので一家は汚名返上できたかもしれません(妻子持ちのニックがデートアプリを使ってたのはニックの失態だけど)。ただ、ドーンの寂しさを紛らわす手段に過ぎなかったデートアプリ交流が結果的にソフィーの不倫をも白日の下に晒し、ニックの誘拐と殺害を引き起こすことになったのは何とも言えない後味の悪さがありますね。
結局ニックはとばっちりで死んだだけだったので。
でもあの事件をきっかけにソフィーとピアが互いへの信頼関係を築くことになったのは良いことだったかも。

関連しているかもしれない他の作品

最初、「ニックがクソ野郎だと分かった前半」の段階では、私はこのドラマはNetflixアメリカドラマ「テッド・バンディ (原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile)」みたいなものかなと思っていました。
このドラマは、シングルマザーの女性が結婚した男は実はその当時若い女性を残忍に殺害していた連続殺人犯であり、その外見からは想像もつかないほど邪悪な人間だった、という実話に基づくストーリーです。

ただ、私は「Clickbait」のニックもそうなのですが「テッド・バンディ」の主人公テッドの顔が生理的に受け付けないためあの作品は途中で観るのをやめました。
でもニックもテッドも作品内では「かっこよすぎ」と女性達からモテモテなので、アメリカではああいう少し濃いめのラテン顔がかっこいい顔なのかも。
こればっかりは私にはどうしてもよく分からんからしゃーない。

Netflixの「テッド・バンディ(Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile)」公式予告編(字幕なし)

テッド・バンディもそうなのですが、なぜサイコパス系の人間は薄幸の日々を送る寂しげな女性を嗅ぎつけるのが上手いんでしょうね。
これは歴代のスパイ方法をまとめたNetflixのドキュメンタリー「SPYCRAFT」で戦略的に利用されていた方法です。

エピソード3の「Sexspionage」にて、東西ドイツ分断中、西ドイツの政府機関で機密情報を取り扱う重要役職に就いているものの男に縁のない孤独な女性達から情報を盗む手段として、心理術の訓練を受けたハンサムな東ドイツのスパイ達が大量に暗躍していたことが描かれていました。そのため、同じように人間の心理を見破るのに長けているサイコパスにとっては他人の心の隙に付け入ることなんて造作ないことなのかもしれません。
「SPYCRAFT」はロシア(ソ連も含む)やアメリカ、東ドイツなどの各国がいかに敵にバレずに暗殺したり情報を入手したりしてきた歴史がまとめられていて興味深いドキュメンタリーです。
※残念ながら「SPYCRAFT」の公式予告動画はありませんでした。

また、この作品で欠かせない要素は最初でも述べた「SNSとインターネット」だと思います。作品内では誰もが自分の日常をSNSに投稿していたので次々に関係者が炙り出されていきました。ただ、SNSを全く使わない人物がいたらあそこまでうまくいかなかったと思います。

実際私はFacebookもTwitterもInstagramもアカウントはあるものの全く使っていないのでスマホにインストールすらしておらず、自分の写真などもネット上に投稿していないし、私の写真をわざわざ投稿するようなタイプの友人もいません。また、上記SNSだけでなくTikTokやYoutubeといったエンタメアプリもスマホに入っていないため、もし私が事件に巻き込まれても私の痕跡はSNS経由やアプリの視聴履歴などからは見つけられなさそう。
そういう時は街角の防犯カメラやGoogleの位置情報記録を使うことになるのかな。でもその場合変装したりスマホからSIMカードを抜いたりしたら手掛かりを掴むのは難しくなりそうではあるんだけど…
とは言え、きっとプロ達はあらゆる手段をもって見つけ出してくれそう。

これについては「幸福な監視国家・中国 (NHK出版新書)」内のある部分を思い出しました。
香港のデモ運動時、デモに参加した若者達は当局の監視カメラやインターネット情報網から個人情報を特定されることを避けるためにスマホの位置情報記録をOFFにして顔を隠すヘルメットやマスクを身に着けたり、同じ色の服を着たり、移動の際の切符購入時もプリペイドカード決済ではなく紙の切符をわざわざ入手したりしていたそうです。
極度にインターネット技術が発達した現代社会で自分自身の情報を残さない最も有効な手段は、「ネットから離れる」というある意味昔の状態に戻ることなのかもしれません。

インターネットによる個人情報特定に関してなら、失踪した娘をインターネット上の情報で探していく映画「SEARCHING(邦題:search/サーチ)」も面白そうなので今度観たいです。

映画「SEARCHING」公式予告編(字幕なし)

インターネットなど無かった時代の捜査はマンパワーに頼るしかなかったので大変だったでしょうね。もしくは、現代ほど悪意が氾濫していなかった頃は殺人の動機や手口もそこまで複雑ではなかったのかもしれない。

殺人事件での捜査といえば犯人像のプロファイルを使うのが今では一般的になっていますが、その捜査方法を生み出したFBI捜査官のドラマ「MINDHUNTER」は残忍な事件を起こす人間の性質や傾向を分類し、それを応用して実際に調査を進めていくので観ていて「なるほど~」と思うことが多いドラマでした。

現在シーズン2まで配信されているものの、シーズン2では主人公の捜査官がプロファイル捜査への過剰な熱意と野心のあまり次第に暴走・憔悴していったり、その捜査官の相方男性の養子の少年が実はサイコパスだったりとなかなか重い展開が続きます。
実話を基にしているので有名な連続殺人犯をなぞらえた犯人達も数多く登場します。

Netflixのアメリカドラマ「MINDHUNTER」公式予告編(字幕なし)

これはシーズン2の予告編ですが、全体的にこういう緊迫感でストーリーが進んでいきます。
Netflixで好きなドラマの一つ。

個人的に犯罪映画で最も好きなのは韓国の「悪魔を見た」ですね。この作品以外にも言えることですが、韓国の犯罪作品や社会問題作品はレベルが高すぎるので期待外れになる確率がかなり低いと感じます。重厚な作品を観たい時はまず韓国作品を漁っています。

あとは珍しいタイプの犯罪映画ならデンマークの「The Guilty」も良作だと思います。音声だけで進む展開が斬新だったし、どんでん返しの構成が上手いと感じました。北欧映画の寒々しい雰囲気、割と好きです。
国によって映画の雰囲気が違うのは面白いですよね。

韓国映画「悪魔を見た」日本版予告編

デンマーク映画「The Guilty」公式予告編(英語字幕)

終わりに

私は一時期推理小説にハマりまくって綾辻行人を中心に色々読み漁っていました。ふと思ったけど、なぜ犯罪ドラマや推理小説は魅力的なんでしょうね。決して殺人犯に共鳴したりしているわけではないのに。

非日常的だから?

それとも、普段の生活では様々なことがあやふやで曖昧なまま処理されていく場合が多いのに対し、犯罪フィクションの世界では「事件発生→推理→真相解明」という流れで事件が完全に解決・理解されるのが気持ちよく感じるせい?
起承転結の「結」が無かったり観客にラストシーンの展開を委ねたりする作品鑑賞後にモヤモヤするのは「解決」という過程が無いせいだもんね。

「Clickbait」は久しぶりに一気に鑑賞したドラマでした。夢中になった勢いで言うなら、大好き過ぎて何度も観たNetflixのドイツドラマ「DARK」と近いかも。
「DARK」は傑作ですね。

ドラマのタイトルである「Clickbait」は、動画の内容と実際のニック本人の行動は全く異なるものだった、という感じなのかな。
つまり、「I abuse women」「At 5 million views I die」という紙を持ったニックの動画を観た人々はニックが残忍な犯人だと思い込んで「おいおい、どういうことだよ?!」と興味を持った(まんまと騙されて再生しまくった)ものの実際のニックはそんな罪を犯していなかった、という種明かし。
過激な内容は人の関心を集めやすいからね。

あと、ピア役のZoe Kazanは作品内では金髪のおかっぱなのですが自然体の本人は全然違いました。
髪型でここまで印象が変わるとは…

余談ですが個人的には1シーズンが10話以下の作品は比較的短時間で観終われることが分かるので気軽な気持ちで再生しやすいです。
それに関して言うと「花より男子」の中国リメイク版「流星花園2018(英題:Meteor Garden)」は1シーズンが49話もあって「多すぎやろ?!」とたまげたよ。アジア圏(特に中国、台湾)のドラマは時々1シーズンあたりの話数がとんでもなく多かったりするのでびっくりする。

関連記事

インドのジャムタラ村で実際に起きた村ぐるみのフィッシング詐欺事件を描いたドラマの感想です。

この記事で紹介した映画

タグ: